1988年の公開直後から、毀誉褒貶激しく物議を醸し、いまや伝説となったインディペンデントの極北『追悼のざわめき』。86年の完成から実に22年、あの松井良彦が遂に沈黙を破った。その待望の新作は、性的トラウマを抱え、ホモ・セクシュアルになった青年とニューハーフとの究極の“初恋”の物語だ。生のままの激情を曝け出すこの無鉄砲さは、邦画バブルのぬるま湯でふやけつつある我々の魂を巨大な鈍器で殴りつける。かつてのATG映画が担っていたような剥き出しのエネルギー、その泥くさいまでの真摯さが、観る者に決して消えないしこりを残す。そして何より恐ろしいのは、この衝撃作を松井良彦自身は、「非常にかわいらしい青春ラブ・ストーリー」と語っていることだ!! 覚悟無き者、観るべからず。  

主人公アキラを演じるのは、『月の砂漠』(03)、『カミュなんて知らない』(06)の柏原収史。超過激な松井映画の中で、ときに妖しく、ときに残酷に魅せる性と暴力。ヒロイン香里には、新宿で人気のニューハーフ・あんずが抜擢され、ミステリアスなキャラクターの苦悩と葛藤を身ひとつで体現。そして、松井組の常連俳優、ピンク四天王の佐野和宏が圧倒的な存在感で松井組復活の狼煙をあげる。特殊メイク・造形には『追悼のざわめき』からキャリアをスタートさせ、いまや『妖怪大戦争』(05)や『インプリント 〜ぼっけえ、きょうてえ〜』(05)、『叫』(07)を手がける松井祐一。さらに、『追悼のざわめき』に共鳴し、デジタルリマスター版では音楽も担当したミュージシャン上田現によるエンディング・テーマ「水の記憶」は、道端にひっそりと咲く、ひなぎくの花のようにかすかな救いを感じさせる。